慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)には、学生が夜遅くまで研究活動に取り組む独特の文化が存在する。時間の制約に囚われない活動を推進すべく開発が始まった滞在型学習エリアは、学生たちが自らの手で設計や運用に関わることから Student Build Campus(SBC)と呼ばれている。
学生が宿泊し、ワークショップなどを行うことができる「滞在棟」。その柱には、創造的な活動を支援するためのホワイトボードやパーテションの追加を想定したミゾが切られていた。このミゾに着目し、すでにある空間を利用するだけでなく、学生自ら空間を積極的に作り変えていくきっかけとしてデザイン。ミゾをインターフェースとして捉え、「活動のテンプレート」となるプロダクトを制作した。
学生の創造性を喚起し、自律的な活動をうながすテンプレート
学生の創造性を喚起し、自律的な活動をうながすテンプレート
横幅15mmのミゾに収まり物品を保持するクリップのような構造と、波状のリブがもたらす安定性。キャンパスで利用可能な3Dプリンタで作られているため、学生は気軽なアレンジや新たな用途開拓に取り組みやすく、SBCの精神に基づく創造的な試行錯誤をサポートすることが可能となっている。
熱で溶解した極細のプラスチックフィラメントを積み重ねることで成形する3Dプリンター。これまでは積み重ねた痕跡が「積層痕」と呼ばれ、プロダクトの外観を損ねるものとしてネガティブに捉えられていた。研磨・塗装をすることによって積層痕を消し、なめらかな表面にする処理を加える方法もあったが、作業負担の大きさと専門性の高さから学生が主体となるプロジェクトには相性が悪い。
そこで、積層痕より目立つ「縦リブ」をデザインのルールとすることで、「積層痕」の未完成な印象を払拭。積層型3Dプリンターならではの味わいを表現することに成功した。
積層型3Dプリンタならではのテクスチャ
Keio Universiy
Client
Product
Services
Industry
Education
Inspiring 3D printed object for University Students
Keio University / SFC-SBC
建物の特徴を詳細に捉え、ここでしか生み出せない「活動」とはなにかを考えることから始めた。
学生たちが集い、まだ定義されていない問題に取り組むとき、必要なのは便利なツールではなく、思考することそのものを支援するようなインターフェースである。はじめに道具を作り出した人類のように、能動的に空間を捉え、自らの手で改変していく仕組みのデザインこそが、SBCというプロジェクトには相応しいと考えた。
ある決め切ったプロダクトの形を提案するのではなく、使用例となるようなオブジェクトを空間に点在させることで、そこから着想を得て、さらなる工夫が生まれるモチベーションを埋めこもうと試みたものである。